2024.12.17
【第2回】:アジャイル型開発におけるテストの重要性
自動車業界においても、機能ごとに細分化された開発サイクルを繰り返していく「アジャイル開発」が広まりつつあります。柔軟性に優れるアジャイル開発は、状況が変化する自動車業界に迅速なリリースや品質の改善をもたらす手法です。
そして、アジャイル開発のアプローチは、情報とエンターテインメントを提供する「IVI(In-Vehicle Infotainment)システム」の開発においても有効といえます。アジャイル型IVIシステム開発の基本事項については、第1回の記事をご一読ください。
しかし、IVIシステム開発に対するアジャイルの適用は容易ではなく、実現にあたっては数々の課題が立ちはだかっています。アジャイルをIVIシステム開発に適用するためには、これらの課題を把握することが肝要です。
第2回となる本記事では、アジャイル型IVIシステム開発の実現に向けた課題についてお伝えします。
IVIシステム開発にアジャイルを導入する際の課題
アジャイル型IVIシステム開発を実現することの難しさは、自動車業界の構造やアジャイルの特性が大きく影響しています。従来のウォーターフォール開発を採用しているIVIシステム開発チームがアジャイルを導入する際の課題は、主に次の3つです。
ステークホルダーとの連携体制の再構築
短いスパンでリリースを繰り返すアジャイル開発では、社内外を問わずステークホルダーとの密接な連携体制が不可欠です。従来のウォーターフォール開発からアジャイル開発に移行する際には、こうした連携体制の再構築が大きな課題となります。
自動車業界のサプライチェーンはピラミッド状の階層構造であり、上流(材料メーカー)から下流(自動車メーカー・自動車販売店)までの長さ・広さが特徴です。そのため、IVIシステムの開発に携わる企業にも、往々にして複数の関係企業との連携が求められます。
複数の自動車メーカーにIVIシステムを納品するケースも珍しくありません。メーカーや車種ごとにIVIシステムの仕様は細かく変わるため、納品先に合わせた対応が求められます。アジャイルを導入する場合、こうしたステークホルダー全てとの連携体制の見直しが必要です。各社との調整に多くのコストを要するばかりか、大きなリスクをともないます。
そのため、アジャイル開発の必要性を感じつつも、抜本的な取り組みを行えない企業が大半です。アジャイル開発に対応するためには、多様なステークホルダーや煩雑な開発体制への対応を念頭に置いたアプローチが求められます。
サイロ化からの脱却
アジャイル開発に求められるスピード感を実現するためには、組織やチームが独立して連携が取れていない状態である「サイロ化」から脱却し、部門間の壁を取り払うことが求められます。特に、開発チームと品質保証チームの連携はアジャイル型IVIシステム開発には欠かせません。
しかし、現実のIVIシステム開発ではサイロ化が進んでおり、部門間での情報やITリソースの共有が難しくなっています。IVIシステムの開発と品質保証では、要求されるツールやスキルセットが大きく異なるケースが多いためです。また、従来のウォーターフォール開発だと役割ごとの分業がしやすい分、部門ごとの分断が生じやすい側面もあります。
サイロ化から脱却できなければ、開発チームと品質保証チームの連携が不十分となり、IVIシステムの品質低下に直結する重大な問題を見逃しかねません。
安全性の確保
アジャイル開発は柔軟性が高い反面、ウォーターフォール開発と比べると確実性は高くありません。このデメリットは、IVIシステムに求められる安全性の確保に向けた障壁となります。アジャイル開発のメリットを享受しつつ、いかにして安全要件を満たすかが課題です。
IVIシステムには高い安全性が要求される機能が多く、これらの開発に対するアジャイルの採用はリスクをともないます。たとえば、ブレーキ警告灯の表示に不備があればユーザーがブレーキの異常に気付くのが遅れ、人命の危機に直結しかねません。
こうしたリスクに対処するためには、プロセスの自動化による人的ミスの抑制や、ハイブリッド開発の採用といった戦略も視野に入れる必要があります。ハイブリッド開発は、安全要件が高い機能はウォーターフォールで、柔軟な改良が求められる機能はアジャイルで開発するというように、ウォーターフォールとアジャイルを組み合わせたアプローチです。ただし、これらには適切なソリューションの導入が求められます。
IVIシステム開発におけるテストの重要性
IVIシステム開発にアジャイルを導入するうえでは、テスト工程の最適化が極めて重要です。
IVIシステム開発におけるアジャイル移行には、組織的・技術的な刷新をともなうため、多くの時間やコストがかかります。アジャイル型IVIシステム開発の実現に向けては、失敗時のリスクに見合ったリターンが期待できる施策を選ぶべきです。
その点、テスト工程はソフトウェア開発全体の中で30~40%程度の工数を要すると言われています。工数の比重が大きく、ボトルネックとなりやすいテスト工程の生産性を向上することで、高い費用対効果が見込めます。
また、IVIシステムの重大な品質問題を確実に検出するためにも、テスト工程の品質向上は欠かせません。アジャイル型IVIシステム開発の実現に向けては、テスト工程の最適化を念頭に置いた取り組みが求められます。
アジャイル型IVIシステム開発に求められるテストの要件とは?
今回は、アジャイル型IVIシステム開発の実現に向けた課題について整理しました。
■第2回のポイント
- IVIシステム開発にアジャイルを導入する際には、ステークホルダーとの連携体制の再構築やサイロ化からの脱却、安全性の確保などが課題となる。
- IVIシステム開発にアジャイルを導入するうえでは、テスト工程の最適化が極めて重要となる。
IVIシステム開発におけるアジャイルの導入は、メリットだけではありません。適切に導入できなければ、アジャイル開発の柔軟性を活かせないばかりか、コスト増大や品質低下につながるリスクもあります。アジャイル型IVIシステム開発の課題を解消し、高い費用対効果を実現するためには、テスト工程の最適化が不可欠です。
第3回となる次回は、アジャイル型IVIシステム開発に求められるテストの要件について解説します。
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