ATS|テスト自動化

2024.8.21

【第1回】:自動車業界の現状と高まるテストの重要性

IVIシステム開発とテストの核心に迫る

昨今の自動車業界は、自動運転技術をはじめとするテクノロジーの発展により新たなシーンを迎えようとしています。なかでも中核を担うのは、自動車の情報とエンターテインメントを両立する「IVI(In-Vehicle Infotainment)システム」です。IVIシステムは、外部デバイスと高度に連携する「コネクテッドカー」の実現においても重要となります。

その一方で、日本の自動車メーカーにおける品質不正がメディアを騒がせることも増えてきました。日本の経済発展をリードしてきた自動車業界の品質が揺らぐことは、日本経済にとっての脅威でもあります。自動車技術の発展が、日本ブランドの品質を毀損するようなことは避けなければなりません。

日本ブランドの品質を守るうえでは、IVIシステム開発においても品質保証の重要性を改めて見直すべきです。今回のADOC TESLABブログではIVIシステム、そして品質保証において欠かせない「テスト」に焦点を当て、連載で順次解説。第1回となる本記事では、自動車業界の現状とテストの重要性についてお伝えします。

自動車業界を取り巻く状況について

自動車の日本ブランドは、長きにわたり世界的に高い地位を確立してきました。しかしながら前述のように、自動車業界ではメーカー各社における品質不正が相次いでいます。そして、これらの多くは品質保証の不備に起因するものです。

たとえば国内大手自動車メーカーでは、過去の騒音試験やエンジン出力試験に不備があったことが発覚。モデルチェンジ時の重量増による再試験を省略するために、規定よりも重い重量のもと試験を実施したのです。型式指定制度で規定された条件を満たさない試験であり、品質保証における不正に他なりません。

またエンジン出力試験については、別のメーカーのグループ会社でも品質不正が行われていました。測定値を安定させるために、量産用とは異なるソフトウェアをIVIシステムのECU(Electronic Control Unit)に組み込み、試験を実施したのです。品質不正が発覚したグループ会社は、エンジンの出荷停止に追い込まれる事態となりました。

これらは一例であり、他にも多数の品質不正が報告されています。これらの品質不正は自動車業界のみならず、日本経済にとっても多大な影響を及ぼしかねません。このように、自動車業界では日本ブランドの品質が脅かされているのが現状です。

なぜ品質不正が相次いでいるのか

品質不正が発生する背景には、組織において少なからずガバナンスの欠如が生じていると考えられます。しかし、ガバナンスの欠如にも何らかの要因があります。ここでは、なぜ自動車業界において品質不正が相次いでいるのかについて考察し、掘り下げて解説します。

市場競争の激化による品質意識の低下

まず、市場競争の激化による品質意識の低下が挙げられます。昨今では、自動車メーカーの多くが海外拠点を抱え、世界の市場を舞台にしのぎを削っています。コネクテッドカーやEV車など、新たな生産・開発に多額の投資を行う企業も少なくありません。

市場競争が激化する状況においては、往々にしてコスト削減や納期短縮の優先度が高まります。その結果、相対的に品質への意識が希薄となる側面は否定できません。事実、「再試験を省略する」といった目的で行われる品質不正は、開発期間短縮などによる品質保証のコスト削減を優先したために生じたものです。

特に昨今の日本では、歴史的な円安の追い風はあるものの、国内市場の縮小や世界的なEV市場の競争激化などにより、多くの自動車メーカーが苦境に立たされています。こうした状況のなかで競争力を維持するために、品質が犠牲にされやすくなっている側面もあります。

業界構造に起因する品質保証の難しさ

自動車業界の業界構造が品質保証のハードルを高めている側面もあります。自動車業界では、下図のように何層もの企業がピラミッドを成し、サプライチェーンを実現します。すなわち、自動車業界は多重下請け構造となっているのが特徴です。

一般的に、ピラミッドの上位に位置する企業ほど立場が強くなります。特に大手自動車メーカーの立場が強いケースは多く、その下請け企業はコスト削減や納期短縮を要求されることは珍しくありません。下請け企業が品質保証の一端を担っている場合、立場上その要求を拒むことは難しいのです。

当然ながら下請け企業にも予算などの制約があるため、従来の品質保証プロセスを遵守しつつ要求を満たすことは容易ではありません。そのため、下請け企業がシビアなコストや納期を達成すべく、品質保証そのものの品質を犠牲にするケースは往々にしてあります。

高まるテストの重要性について

このように、自動車業界では競争激化や業界構造などの要因から、その品質を保証することが難しくなっています。IVIシステム開発におけるテストも例外ではありません。

こうした中で、品質保証の中でもウェイトの高いテストの重要性が高まっています。ソフトウェア開発において、テストの工数は全工程における30~40%程度を占めると言われています。つまり、テストはコスト削減や納期短縮のうえでネックになりやすいのです。

特にIVIシステムにおいては、昨今の多機能化・複雑化によって様々なテスト観点が生じています。例として、カーナビだけでも下表のように様々なテスト対象・テスト観点をカバーしなければなりません。その結果、テストケースが増大し、業務負荷が高まっています。

カーナビのテスト観点の例

また、カーナビのように画面表示をともなうテスト対象の場合、表示系テストの生産性向上も重要となります。たとえば、インジケータの点滅周期をテストする場合、目視では正確に判定することが難しいばかりか、工数もかかりやすいといえます。撮影ツールを用いる場合でも、調整作業の手間や環境要因での撮影不備に悩まされるケースが少なくありません。

さらに、昨今のAI発展によってサイバー攻撃への懸念も高まっています。外部デバイスと通信を行うコネクテッドカーのIVIシステムをテストする場合、セキュリティ要件はよりシビアとなります。自動運転車への搭載を見据えたIVIシステムを開発する場合も、性能要件は高くなることが予想されます。つまり、非機能要件のテストの重要性も高まるのです。

このように、IVIシステムのテストは生産性向上や非機能要件への対応に向けて、より重要性が高まっています。テストでの不備が出荷停止や取引停止、ひいては自社の業績に悪影響を及ぼす事態も勘案しなければなりません。

IVIシステムのテストにおける課題と対応のポイントとは?

今回は、自動車業界の現状とテストの重要性について整理しました。

■第1回のポイント

  • 自動車業界では品質不正が相次ぎ、日本ブランドの品質が脅かされている。
  • 品質不正の背景には、自動車業界の競争激化や業界構造も関係している。
  • 自動車業界が品質を守るうえで、テストの重要性は高まっている。

自動車業界におけるIVIシステムのテストにおいても、その重要性は高まっています。IVIシステムのテストを最適化するうえでは、まず課題を知り、対応のポイントを把握することが肝要です。第2回となる次回は、IVIシステムのテストにおける課題と対応のポイントについて解説します。

IVIシステム開発とテストの核心に迫る の記事一覧

IVIシステム開発とテストの核心に迫る

  • 2024.9.10
  • 【第2回】:テストにおける課題と対応ポイント

BLOG シリーズ 一覧