2024.11.21
【第1回】:アジャイル型IVIシステム開発の基礎知識
IT市場におけるニーズの多様化や競争の激化にともない、ソフトウェア開発には高速なリリースや柔軟性の高い開発が求められるようになりました。こうした中で、機能ごとに区切った小規模な開発サイクルを繰り返していく「アジャイル開発」が普及しています。
そして、アジャイル開発の普及は自動車業界も例外ではありません。特に、車内で情報とエンターテインメントを提供する「IVI(In-Vehicle Infotainment)システム」の開発では、アジャイル型のアプローチを採用するケースが増えています。
他方で、昨今では自動車業界の品質問題・品質不正がメディアで取り上げられることも少なくありません。自動車のIT基盤とも言えるIVIシステムの開発にアジャイルを適用する場合も、品質に対する懸念を払拭できるアプローチが求められます。
今回のADOC TESLABブログでは、「最適なアジャイル型IVIシステム開発の実現」に焦点を当て、連載で順次解説。第1回となる本記事では、アジャイル型IVIシステム開発の現状と有用性についてお伝えします。
自動車業界で進むアジャイル開発の取り組み
従来の自動車業界では、後戻りしない前提で工程を進めていく「ウォーターフォール開発」が主流でした。ウォーターフォール開発では、ソフトウェア全体に対して要件定義・設計・実装・テストと直線的に工程を進め、最終的に完成品をリリースします。
しかし昨今の自動車業界では、大手自動車メーカーを中心にアジャイル開発へと移行する企業が増えています。アジャイル開発は、機能ごとに要件定義・設計・実装・テスト・リリースといった開発サイクルを繰り返し、品質を高めていく手法です。
たとえば、国内のトヨタ自動車やドイツのフォルクスワーゲンは、アジャイル開発を積極的に導入。大手企業のこうした取り組みは影響力が強く、直接的・間接的に取引関係を持つIVIシステムの開発企業にも波及しています。
IVIシステム開発においてもアジャイルを採用するメリットは大きく、今後アジャイル型アプローチの必要性はいっそう高まると考えられます。
IVIシステム開発にアジャイルを採用するメリット
自動車業界の一般的な手法であるウォーターフォール開発には、種々の欠点があります。アジャイル開発はこれらの欠点を補う多くのメリットを持ち、解決策として広がりを見せています。IVIシステム開発にアジャイルを採用するメリットは、主に次の3つです。
要求・要件の変化に対する柔軟性
アジャイル開発には、要求・要件の変化に対する柔軟性があります。アジャイル開発では、各開発サイクルが完了する度にソフトウェアをリリース可能です。1サイクルが小規模のため、要求・要件が変わった際でも短期間で素早く対応することができます。
昨今ではIVIシステムが多機能化し、ソフトウェアの要求・要件も増加しています。要求・要件が増えれば変化も生じやすくなり、時には機能単位での細かい調整も必要です。しかし、1サイクルが大規模なウォーターフォール開発では迅速な調整が行えません。また、市場のニーズが急速に変化した場合、リリース前に市場価値が低下することも懸念されます。
その点、アジャイル開発は1サイクルが小規模で小回りが利くため、こうした要求・要件の変化に柔軟な対応が可能です。急速に移り変わるニーズを素早く追従し、市場で求められるIVIシステムの価値を迅速に提供することができます。
開発プロセスの効率化
アジャイルを採用することで、開発プロセスの効率化につながります。機能ごとに開発サイクルを細分化することで、バグや品質問題を早期に発見することが可能です。これにより、後から大規模な修正が発生する事態を防げ、開発工数の増大を抑制できます。
ウォーターフォール開発では1サイクルが大規模な分、途中の工程でバグが判明した際の手戻りが大きくなります。その点、1サイクルが短期間なアジャイル開発では手戻りが少なく済み、状況によっては次のサイクルに残件を回すことも可能です。
自動車市場のスピード感に対応するためには、IVIシステム開発においても開発プロセスの効率化が不可欠です。アジャイル開発による開発プロセスの効率化は、スピーディーな開発・リリースを実現するうえで欠かせません。
継続的な品質の改善
アジャイルを採用することで、継続的な品質改善を図ることが可能です。アジャイル開発では、段階的に機能を追加しながらソフトウェアを完成に近づけていきます。これにより、開発の途中でユーザーや顧客からのフィードバックを取り入れやすくなります。
昨今のIVIシステムは複雑化や技術的な高度化が進み、一度のリリースで完全なソフトウェアを提供することが難しくなっています。そのため、1サイクルで完成を目指すウォーターフォール開発では、IVIシステム開発の実情とギャップが生じやすいのです。
その点、アジャイル開発は一度でソフトウェアを完成させることを前提としません。ユーザーや顧客からのフィードバックを前提として柔軟に進めていくため、最終的により満足度の高いIVIシステムの提供が可能となります。
なおアジャイル開発は、開発プロセスの自動化を図り、継続的な開発・リリースを実現する「CI/CD」と相性の良い手法です。アジャイル開発にCI/CDを組み合わせることで、IVIシステム開発の中長期的な生産性向上を図ることも期待されます。
アジャイル型IVIシステム開発の課題とは?
今回は、アジャイル型IVIシステム開発の現状と有用性について整理しました。
■第1回のポイント
- 自動車業界では大手自動車メーカーを中心に、従来のウォーターフォール開発からアジャイル開発へと移行する企業が増えている。
- アジャイル開発には、要求・要件の変化に対する柔軟性、開発プロセスの効率化、継続的な品質の改善といったメリットがある。
- IVIシステム開発においてもアジャイルを採用するメリットは大きく、今後アジャイル型アプローチの必要性はいっそう高まると考えられる。
ユーザーや顧客の要求に素早く対応できるアジャイル開発は有力な手法といえます。しかし、IVIシステム開発においてアジャイルを適用することは、現実的に容易ではありません。アジャイル型IVIシステム開発の実現にあたっては、さまざまな課題が障壁となります。
第2回となる次回は、アジャイル型IVIシステム開発の実現に向けた課題について解説します。
- 2024.11.21
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